ニューコ・ワン労働組合

熊本、福岡、宮崎県内に「TSUTAYA」「蔦屋書店」「TSUTAYA BOOKSTORE」の大型複合書店を24店舗展開。ニューコ・ワン労働組合(本部熊本市)は、組合員数82名。

『ノウ イット オール あなただけが知っている』

森 バジル 著 文藝春秋

『ノウ イット オール あなただけが知っている』

小説作品にはさまざまなジャンルがあります。ミステリー、純文学、恋愛、SF、ホラー。通常1つの作品に入るメインの要素は1つか2つ。ですが!、この作品はひと味違う。その数なんと5つ!。推理小説、青春小説、科学小説、幻想小説、恋愛小説。同一の作品世界のなかで5つの異なるストーリーが展開します。
さらに、その一つひとつがなにかしらの関係を持っており、ほかのお話でメインだったキャラが脇役として別のお話に登場します。そのつながりから、主役だったお話で隠されていた一面がちらっと垣間見えます。
第1章「探偵青影の現金出納帳」では、推理をしない、成功報酬一件あたり1000万の美女探偵が、やくざの事務所で起こった不可解な殺人事件に遭遇。
第2章「イチウケ!」では、男女高校生コンビがMー1優勝を目ざすお笑い青春ストーリー。著者のお笑い好きが見事に展開を面白くしています。
第3章「FUTURE BASS」では、未来から届いた〝なんでも職業スキルが使えるようになる”オーバーテクノロジーと出生の秘密が関わるアクションノベル。
第4章「ラクア=ブレズノと死者の記憶」では、吸骨鬼〝ヴァンボイア”の脅威が襲う異世界。そこから追放された男が現代社会に紛れ込んだヴァンボイアを女子高生と追跡するバディもの。
第5章「恋と病」では歌会で出会い恋人同士となったふたり。ヒロインは人の顔が憶えられない失貌症を相手に隠していますが、いつしかその秘密は…。
多数の視点・人物からなる物語のことを「群像劇」といいますが、これほど見事な構成のドラマはそうそうない。もう一つ驚くべきことは、この作品が第30回松本清張賞受賞作にして、この賞を獲るために、ほんの数カ月で執筆されたという事実。著者は同賞の第29回で惜しくも受賞を逃したが、選評をふまえたうえで再チャレンジし、見事栄冠を獲得しました。今作を含めて書籍化は2冊目。これからが楽しみな作家さんです。

『頭のいい人が話す前に考えていること』

安達 裕哉 著 ダイヤモンド社

 「この本を読むと、だれでも〝頭のいい人”になれる」。本書の冒頭のフレーズが目に飛び込んできた瞬間、この本を読もうと決めました。
 ビジネスシーンにおいて、正直知性がない、相手に話が伝わらない自覚がある私は、話しているだけで「この人頭がいい」と感じる人の思考法を知りたいと思っていました。その答えはすべて本書に載っています。
もちろんスキルを知ったところで人の心は動かせません。人の心を動かす、思考の「質」の高め方を知り、アウトプット(言語化)する技術も学べるのですが、それは日ごろの癖を少し工夫するだけで、なにも難しいことではなかったのです。
本書は、頭のいい人になるためのプログラムとして、第1部が知性と信頼をもたらすマインドの部、第2部が思考を深めて自身のフォームを改善する部で構成されています。
驚くことに、著者はこの本を読み返さなくていいようにつくったと明言しています。読了後、確かにそれだけの影響を感じている自分がいました。とくに印象的だった部分ですが、「普段発している言葉の意味を本当に理解して使っているか?」と聞かれると、私は言葉の定義を曖昧なまま使って話が浅いと言われた経験を思い出します。「言葉に敏感になることで言葉の定義を明確にして、思考の解像度が上がり、伝わり方も変わる」と筆者は言います。
自分なりに考えていても、他者から「考えてない、話が浅い」とされるのは、質に変換できていないから。話す前の思考の質を高めるだけで信頼度が上がるということです。学歴や才能ではありません。頭の良さは話す前にどれだけ立ち止まれるかで決まります。
新鮮な気づきが多く感じられた本書は、分かりやすく身の周りに具体的に落とし込めるため、仕事や家庭で即実践できることがたくさんあります。読む前は頭のいい人になりたいと思っていましたが、読了後は思考の解像度を上げて信頼される人間になりたいと思うようになった時点で、すでに効果は出始めているかもしれません。

『頭のいい人が話す前に考えていること』

SSUA文真堂書店労働組合

群馬県内を中心に、栃木、埼玉、東京に「文真堂書店」「Bookman’s Academy」など25店舗を展開。SSUA文真堂書店労働組合(本部群馬県前橋市)は組合員数288名。

『海が走るエンドロール』

たらちねジョン 作 秋田書店

たらちねジョン 作 秋田書店

65歳を過ぎて夫と死別し、数十年ぶりに映画館を訪れたうみ子。そこには、人生を変える衝撃的な出来事が待っていた。海(カイ)という映像専攻の美大生に出会い、うみ子は気づく。自分は「映画が撮りたい側」の人間なのだと…。人生を変える出来事、きっかけというものは、年齢に関係ないのだということを、うみ子さんを見て感じます。
いつも一緒にいた夫がいないんだということを実感して、思い出を振り返るうみ子さん。振り返ると、自分のやりたかったこと、見たかった景色があったけれど、夫婦生活はそれだけじゃ成り立たなくて。それでも楽しくやってきたうみ子さんは、夫がいないことを実感して、やりたかったことに気がついていきます。それが「映画」でした。
個人的に気になっていたコミック(漫画)ですが、まさか一気に読んでしまうほど世界観に共感できるとは思ってもみませんでした。普通に考えて、65歳の主婦が導かれるように見に行った映画館での現役大学生とのふとした出会いをきっかけに、映画を撮るために大学に入学し、大学生として現役生と共に撮影の勉強をする…。すごい決意と行動力、度胸ある人だなぁ。
男女のロマンスのようなものでなく、クリエイターとして “自分のやりたいこと”とは。うみ子さんのフィルターをとおして感じる“モヤモヤ”が若者の悩みであったり、うみ子さんとの感覚のズレであったり、それぞれの視点で感じ方や進み方が違うんだということがリアルに感じ取れます。だからこそ、“天才”ってのは不気味で怖い存在ですよね、ってなりますね。
最後に人気実況者の牛沢さんの言葉を借りまして。「人生を変える決断をしたうみ子さんに尊敬の念が尽きません。スタートラインはつねに自分の足元にある」。人生は、まだまだこれからですよ。

『真田の具足師』

武川 佑 著 PHP研究所

真田信繁を日の本一の兵(つわもの)にしたのは「武士を生かすも殺すも、わしらの腕一本や」―こう言い放つ気概ある具足師達!。
主人公・岩井与左衛門は、南都奈良の具足師(甲冑師)の家に生まれ、修業を積んでいたが、あるとき「ズクを打った」(不良品をつくった)と言われ、家のゴタゴタもあり勘当されてしまう。
捨てる神あれば拾う神あり。その才能を惜しみ、目をつけたのが徳川家康。徳川軍が信濃の国衆・真田との戦いに惨敗した理由は、真田兵が身に着けている「不死身(しなず)の具足」にあり、と考えた家康。この具足を身に着けた足軽は、鑓で突かれても死なない、と。与左衛門にその秘密を盗ませるため、真田潜入を命じます。
甲賀の女忍びの乃々と夫婦を装い、真田の本拠地・上田に入る与左衛門。そこからは怒涛の展開!。
戦は、武士や足軽だけのものではないと実感。日の目を見ない裏方で、表の人間を支えるためにコツコツと向き合う姿はまさに職人、函人。家を守るため、家族を守るため、己の矜持を守るため、そして死ぬ場所をつくるため。理由はさまざまでも、戦いに表も裏もなく。与左衛門の生き方も弟子である赤児の生きざまも。そしてもちろん昌幸や信繁の生き方も。
人に惚れる。その人のために生きる。なんて素晴らしい生きざまだろう。
「不死身の具足」。この言葉で、絶対面白い作品だと確信して読みました。戦国好き、真田好き、忍び好きにはたまらない一冊。真田の赤備えをつくった具足師達の命がけの闘いを描いた、戦国エンターテインメントです。具足師から見た新たな視点である、徳川VS真田。
やっぱり真田信繁、カッコいいです。ぜひ堪能してください。

『真田の具足師』
武川 佑 著 PHP研究所

コメリグループユニオン連合会 ムービータイムユニオン

新潟、石川、三重県内に書籍専門店「コメリ書房」を11店舗展開。コメリグループユニオン連合会ムービータイムユニオン(本部新潟県三条市)は、組合員数84名。

『リラの花咲くけものみち』

藤岡 陽子 著 光文社

リラの花咲くけものみち

この物語は、10歳で母親を亡くし、その後、父の再婚相手に疎まれ不登校になった聡里が、祖母と愛するペットに支えられて獣医師を目ざすお話です。
獣医大学に合格した聡里は動物を助けたい一心で獣医師を目ざしますが、中学、高校とほとんど友人もいなかったので、ルームメイト達とも打ち解けることができず苦悩の日々。さらに実習体験でも、助けられる命を見殺しにする選択を迫られ、聡里は厳しい現実に直面し、目を背けて挫折してしまいます。しかし、周りの人達に支えられることで、気弱でうつむきがちだった聡里は自信を持って前へと歩き出します。そんな姿に大きな成長を感じることができ胸が熱くなりました。
獣医師という職業は、ペットとして飼われる伴侶動物だけでなく、売買されお金に代えられる馬や牛といった動物達を診るとともに、地方公共団体で働く公務員など、幅がとても広い職業のようです。「動物が好き」というだけでは務まらない理想と現実の間で葛藤することも痛感しました。
聡里が成長する過程や、人と動物の関わりが教えてくれるエピソードには、だれもが「頑張れ」と応援したくなります。さらに、この物語は北海道の広大な自然を舞台にしており、キャンパス内には野生のリスやキツネなどの動物達も訪れます。そんな情景を考えるとより一層楽しめそうです。
物語の至るところに感動的な名言が散りばめられています。そして花言葉も多種多様で深い意味を持ち合わせていて素敵です。新たに踏み出す一歩は無限の可能性と勇気を与え、自分らしく生きることの大切さも教えてくれます。そんなこのお話を私のなかの本屋大賞にしたいです。

『植物に死はあるのか 生命の不思議をめぐる一週間』

稲垣 栄洋 著 SBクリエイティブ

謳い文句として本書の帯に書かれている「生命とは?生きるとは?驚きの『結末』が待っている極上のサイエンスミステリー」、そこまでハードル上げてしまって大丈夫ですか?、本当に面白いですか?。そんなことを思ってしまった自分が恥ずかしくなるほど、見事に一息で読み進めてしまいました。
簡単な内容としては植物学の大学教授である主人公の一人称視点で語られ、月曜日から日曜日の一週間、毎朝学生からメールで来る「どうして植物は動かないのか?」「植物と動物はどこが違うのか?」「草ってなに?」「木は何本あるのか?」「木は生きているか?」「植物は死ぬのか?」「植物はなにからできているのか?」といった質問に悩んで考えて答えを返す、というものになっています。
単純に植物に関する知識だけで考えを進めるのではなく、動物はこうだ、科学的にはこうだ、とさまざまな方面から質問に対しての答えを導こうと悩んでいるところで、自分にとって「考えるとはこういうことなのか」とハッとさせられ、一つの答えを教えていただいたようなスッキリとした気持ちになりました。
曜日ごとの章形式で短編小説のようにもなっているので、読む時間が少なくても、植物に苦手意識があったとしても、気づくと全部読み進めてしまっていることでしょう。
そして、読み終わったときには、なにか一つの答えを得ているはずです。少なくともなにかを自分のなかに導き出していることでしょう。
すっきりした読後感と答えのないことを考えることの楽しさを思い出させてくれるこの一冊。そういえば紹介されてたな、と一度手に取ってみてください。

『植物に死はあるのか 生命の不思議をめぐる一週間』