私はエスター スイ バン モイ。
ミャンマー出身です。
UAゼンセンの職員になって3年。
多様性協働局で働いています。

UAゼンセンには、年齢や性別、国籍、働き方などがさまざまな185万名を超える組合員がいます。仲間達は一人ひとり、さまざまな課題を抱えています。UAゼンセンは多様な仲間の声を聴き、格差や偏見のない働きやすい職場、社会を実現するため、2023年度から多様性協働局を発足しました。ミャンマー出身のエスター局員のプロフィールや実体験とからめながら、多様性協働局の活動を紹介します。多様性を活かして、185万名の総合力を発揮しましょう。

ミャンマーの少数民族・チン族の出身 大学卒業後、日本への留学を希望

エスターさんの故郷はミャンマー北部のチン州。少数民族の一つ、チン族が暮らしている。エスターさんは1992年、州都のハッカで生まれた。薬局を営む父と、病院で医療事務の仕事に就く公務員の母、2歳違いの兄の4人家族。16歳のときに地元を離れ、IT系の大学に進学。さらに就職のために旧首都のヤンゴンで日本語を学んだ。友人のなかには日本に留学する仲間も多く、エスターさんも「いろいろ経験してみたい」と、日本に行くことを希望するようになった。ミャンマーでは親日家が多く、両親も「日本なら安心」と許してくれたそうだ。

「言葉の壁」で苦労し不安でさびしかった

チン州の州都ハッカは海抜1867mの山岳地。旧首都のヤンゴンからはバスで丸一日かかる。

2014年4月に来日すると、都内の日本語学校に通い始めた。同じチン州出身の先輩や仲間と新大久保駅(新宿区)近くのシェアハウスで生活できたのは心強かったが、言葉の壁やカルチャーショックは予想以上に大きかったという。居酒屋でアルバイトを始めたが、注文を聞き取ることができず、メニューの説明も満足にできなかった。外国人に対する嫌悪感をあらわにする客や、レジでお金を投げつける客などもいて、「本当に日本でやっていけるのだろうか…」と、精神的にくじけそうになったそうだ。

職場のパートの女性達に助けられ日本になじんでいった

来日して3年が経ったころからようやく日本の美しい風景や文化にふれる余裕ができた。念願だった富士登山でのひとコマ

疎外感やさびしさを乗り越えることができたのは、「アルバイト先で親切に面倒を見てくれたパートタイマーの女性達のおかげ」とエスターさんは語る。日本語のさまざまな名称を絵に描いて教えてくれたり、理不尽なクレームから守ってくれたりしたそうだ。「接客の仕事は大変でしたが、おかげで、どんどん日本語が話せるようになりました」。来日して3年目、ようやく心に余裕ができて、富士山や桜などの日本の美しい風景を楽しめるようになったそうだ。

同じ立場の留学生をサポートしたい!日本語学校で正社員として働く

日本語学校で1年間学んだエスターさんは、就職に生かすために系列のビジネス専門学校に通いたいと考えるようになった。教頭先生に相談すると、「留学生の面倒を見たり相談に乗ったりしてほしい」と提案があり、日本語学校でアルバイトとして働きながら、2年間専門学校に通学した。卒業して就職先を決めるとき、エスターさんは日本語学校で正社員として働く道を選んだ。ミャンマーの学生が日本に来るための書類の作成や、通訳・翻訳のほか、学生と事前面接を行うためにミャンマーにも出張した。

外国籍組合員の支援のためUAゼンセンに入局

UAゼンセンがミャンマー人の職員を募集していると知ったのは2020年1月のこと。学ぶ意欲のある留学生に奨学金や就職の支援を行っている「国際人材交流支援機構」によると、「産業別労働組合のUAゼンセンでは外国籍の組合員が増え、日常的な世話活動や相談に対応する職員を求めている」ということだった。エスターさんは労働組合については全く知らなかったが、日本語学校で留学生を支援してきた経験を、これからは外国籍労働者の支援に生かそうと思った。こうして2020年4月、UAゼンセンの職員となった。

活動支援局に配属され外国籍組合員の相談に対応

Facebookのメッセンジャー機能を使って労働相談に応じている。話を聞いて共感してもらうだけで安心する相談者も多い

2020年9月に新設された活動支援局で、外国籍組合員はもちろん、幅広く外国籍労働者からの労働相談に対応する活動が始まった。エスターさん(ミャンマー)とブティさん(ベトナム)が2022年9月までの2年間に対応した労働相談は記録に残しているものだけで700件超。労働契約から給与明細、ハラスメントまで多種多様な相談に応じるため、労働法の解説書やワークルール検定の問題集をボロボロになるまで読み込んだ。労働相談は、多様性協働局に異動した現在も継続している。

UAゼンセンの多様な仲間の声を活動に反映し、課題の解決へ

UAゼンセンは2023年度から、多様な組合員の声を活動に反映して課題の解決につなげるため、これまでの活動支援局、男女共同参画局、短時間組合員局の活動を包括する「多様性協働局」を新設した。小川秀人局長のもと、エスターさんもメンバーの一人として活動をスタートした。短時間組合員の組合活動への参加促進や男女共同参画の推進など、新しい活動に前向きに挑戦している。

1.短時間組合員の仲間達に労働組合の大切さを伝え組合活動への参加・参画を呼びかける

短時間組合員の声を集め、UAゼンセンの運動に反映

多様性協働局のメンバーは、小川局長をトップに、寺嶋雪乃副部長(左)、雪丸貴宏局員(右)とエスターさんの4名。「寺嶋さんはさまざまなことを教えてくれる頼れる先輩です」

UAゼンセンの185万名の組合員のなかで、短時間組合員(8割以上が女性)は、約6割(112万名)を占めている。多様性協働局ではさっそく、職場オルグ(訪問活動)やWeb交流会の開催を計画し、短時間組合員の仲間達のリアルな声を聴き、労働組合やUAゼンセンの活動への参加・参画を呼びかけることにしている。「全国の仲間と会えるのが楽しみです」と、エスターさんは語る。

〝労働組合は身近な存在〟「私に声を聴かせてください!」

エスターさんは、職場オルグやWeb交流会で、短時間組合員の仲間にどうしても伝えたいことがあるという。「せっかく職場に労働組合があるのに、声を上げないのは“もったいない”。私が皆の声を聴き、『労働組合は身近にいるよ』と伝えたい!」と力強く語ってくれた。

2.男女共同参画を推進し、多様な仲間が活躍できる社会に

UAゼンセンは性別や働き方で差別されることなく、一人ひとりが個性と能力を発揮でき、心豊かに生きることができる男女共同参画社会の実現を目ざしている。多様性協働局では「職場におけるジェンダー平等の実現」「ワーク・ライフ・バランスの実現」「組合活動における男女共同参画の実現」の3つの目標を掲げ、「第2次男女共同参画推進計画(2021年から5年間)」に取り組んでいる。

毎年7月、「世界経済フォーラム」が発表する「ジェンダー・ギャップ指数」は、「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野で男女格差を測定。1が完全平等、0が完全不平等を示す。日本は総合スコア0・650で、146カ国中116位(2022年)。「日本のような先進国で、これほど男女格差があることに驚きました」とエスターさんは語る。

部門・都道府県支部と連携し男女共同参画を推進

エスターさんは近畿、中国、四国、九州の4ブロックを担当し、男女共同参画委員会のメンバーと具体的なアクションプラン(行動計画)の策定と実行に取り組んでいる。2月4日には高知市内で開催された四国ブロックの男女共同参画委員会に出席し、本部の取り組みを報告するとともに、各組合の状況を聞き取った。

エスターさんは2014年に来日し、ことしで日本に暮らして9年目を迎えた。現在、ミャンマーでは軍による市民への弾圧が激化し、全く帰国ができない状況が続いている。両親や友人達の無事を案じながら、多様性協働局で明るく前向きに活動する日々を送っている。昨年、同じチン族出身のジョセフ・フランフーさんと結婚。休日は上野の「アメ横」に出かけ、揚げパンを食べるのが楽しみだそうだ。

3.無意識の偏見〝アンコンシャス・バイアス〟を解消し多様な人がイキイキと活躍できる職場・社会を!

多様な仲間が職場や社会で気持ち良く活躍するために重要となるのが、「アンコンシャス・バイアス」(別項参照)の解消。エスターさんは多様性協働局が6月に開催する「アンコンシャス・バイアスセミナー」の担当となり、準備を進めている。外国人というだけで心無い言葉を投げかけられた体験を持つエスターさんは、「セミナーが『アンコンシャス・バイアス』に気づくきっかけになってほしい」と語る。

【アンコンシャス・バイアスとは】
 だれもが無意識のうちに持ってしまいがちな「偏ったモノの見方」。思い込みや先入観、偏見など。「外国人の言うことは信用できない」「LGBT(性的少数者)なんて気持ち悪い」「男性は育児に向かない」等々、職場や日常生活で差別やハラスメントにつながらないよう、一人ひとりが客観的に考え方を見つめ直す必要がある。

4.家庭生活と仕事を両立し、ワーク・ライフ・バランスを実現

だれもが働きがいのある仕事ができ、充実した人生を送るためには、「ワーク・ライフ・バランスの実現」が重要となる。多様性協働局では、「働き方の見直し」や「家庭生活と仕事との両立」の促進にも取り組んでいる。昨年結婚して家庭を持ったエスターさんにとっては、身近な問題といえる。「『イクボス』(部下のワーク・ライフ・バランスを応援する上司)を増やし、男性の育児休業の取得を促進したい」と目を輝かせた。

多様性協働局が主催するセミナーに参加を!

「軍による弾圧が続くミャンマーに連帯を!」

Zoomをつうじて、ミャンマーの現状を伝えるエスターさん

2021年2月1日、ミャンマーでは国軍によるクーデターが勃発。現在も市民による抗議活動に対する国軍の弾圧が続いている。ことし2月10日、エスターさんは、UAゼンセンの本部職員に向けて、ミャンマーの現状を伝える学習会を開催し、理解と支援を呼びかけた(『UAゼンセン新聞』3月9日号に詳細)。

週末には街頭募金を実施し、ミャンマーへの理解と支援を呼びかけている

軍によるクーデター勃発以降、国民はデモをはじめ、非暴力かつ公然と「市民的不服従運動」を展開している。この運動の中心を担うのは公務員のため、ミャンマー国内は公的サービスも十分に機能しない状況にある。国軍による弾圧は熾烈で、公務員であるエスターさんのお母さんにも捜索の手が伸び、従兄弟は不当な逮捕により現在も収監中という。

週末には街頭募金を実施し、ミャンマーへの理解と支援を呼びかけている

国軍はSNSの監視などにより、20~30代の若者をマークしており、それに危機感を抱いた一部の若者は武装を開始。各地域に「防衛戦線」を組織し、国軍との戦闘が激化している。エスターさんの出身地域も国軍の砲撃にさらされ、多くの住民が難民状態で避難を余儀なくされている。日本に暮らすエスターさん達は、毎月収入のなかから支援金を送り、街頭でカンパを呼びかけている。
エスターさんは学習会の最後に、「ミャンマーの現状を理解し、応援してほしい」と呼びかけた。

声を上げなければ社会は変わらない政治に関心を持ち、活動に参加を!

政情不安が続く母国を目にして、「政治」の大切さを痛感しているというエスターさん。活動支援局時代、川合孝典組織内参議院議員に提出した資料が、法務委員会での技能実習生に関する質疑につながったのを目の当たりにし、私達の声を届けてくれる組織内議員が国会にいるありがたさと心強さを痛感したという。「職場でも社会でも、なにかを変えたいと思ったら、『声を上げることが大切』」と力を込めた。

私達の代表である川合孝典、田村まみ(右)、堂込まきこ(左)組織内参議院議員。左は法務委員会で技能実習生の人権確保を訴える川合議員