日本では、野球が人気だ。とりわけ、本年3月の「2023ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)での優勝で、日本中が歓喜に包まれたことは記憶に新しい。このWBCで審判員として活躍したUAゼンセンの仲間達がいる。「連帯労働組合プロ野球審判支部」(深谷篤支部長)の仲間達だ。日ごろからプロ野球の審判員として試合を裏で支えている。そのなかの一人、長井功一さんに日ごろの思いをうかがった。
実戦をつうじて日々精進 長井 功一 審判員
ゴールデンウイーク直前の4月28日、「東京ドーム」で行われたセントラル・リーグ公式戦「巨人対広島戦」。約3万5000人の野球ファンが見守るなか、好ゲームが繰り広げられた。この試合で一塁塁審を務めたのが、連帯労働組合プロ野球審判支部の長井功一さんである。堂々とジャッジする姿から、審判員としての威厳や風格が感じられる。
連帯労働組合は、〝個人で加入できる〞労働組合として1984年1月に誕生した(別項に詳細)。この連帯労働組合に1990年にプロ野球パシフィック・リーグの審判員の仲間達が加入し、「プロ野球審判支部」を結成した(1995年にセントラル・リーグの審判員が加入)。プロ野球審判支部の仲間は現在54名で、日本のプロ野球を運営する「日本野球機構」(NPB)に所属している(1年契約、年俸制)。
“選手”から“審判員”の道へ
長井さんは、野球好きの父親の影響で小学3年生から大学まで野球一筋。「同じ目標へ向かって皆で苦楽を共にしたことは、かけがえのない経験でした」と振り返る。
選手として活躍する傍ら、高校・大学時代に練習試合などで塁審をしたことがあり、徐々に〝審判員〞を意識するようになっていった。そして、大学4年生のとき、審判員として大好きな野球に携わっていきたいと決意し、セ・リーグ審判員養成講座を受講。
そして、狭き門を突破し、独立リーグ(NPBとは別に組織されたプロ野球リーグ)で審判員としての第一歩を歩み始めた。その後、経験と実績を積み重ね、2009年1月にNPBと初契約を結び、念願のパシフィック・リーグの審判員となった(2015年にセ・パ両リーグの審判員が統合)。
審判技術に加え 精神力や体力養う
長井さんはことしで審判員歴15年目を迎えた。セ・パ両リーグ合わせて年間約900試合の公式戦が行われるなか、昨年は91試合に出場した。
審判員は、監督、選手はもちろん、多くの野球ファンの厳しい目にさらされるプレッシャーのなかで、冷静な判断が要求される。正確な判定をして当たり前、ミスをすればヤジや罵声など非難の的となる厳しい世界である。
また、プロフェッショナルな技術や能力に加え、3時間を超える試合に耐えうる精神力や体力が欠かせない。そのため、日ごろからジョギングなどで体力強化や健康管理に万全を期している。
審判技術のさらなる向上に励む
目立たないように“黒子”に徹する
日ごろから審判員として意識していることを尋ねると、「できるだけ目立たないように心がけています」と長井さん。「審判員が目立たないことは、トラブルなく順調に試合が進行するということです。選手に気持ち良くプレーしてもらい、試合が無事に終わることがなによりです。そして、お客さまに野球を存分に楽しんでいただきたいです。これは審判員皆の思いです」ときっぱり。
プロ野球では、2018年からリクエスト制度(審判員の判定に異議を唱え、ビデオ判定を要求できる制度)が導入された。昨年、ある試合で長井さんの判定に対し、3回のリクエストがあった。ビデオ判定の結果、いずれも長井さんの判定どおりであり、これがテレビ番組のなかで称賛されたことがあった。
一方で、判定が覆ることもある。「やはり穏やかな気持ちではいられません。しかし、動揺していると、それが選手にも伝わってしまいます。なんとか気持ちを切り替えています」と話す。さらに、「日々勉強です。これからも精進していきます」と決意を込める。
思い出に残る試合は、昨シーズンパ・リーグ最終日の「楽天対オリックス戦」。この試合で長井さんは球審を務めた。試合はオリックスが勝利し、同日他球場で行われていた試合結果により、オリックスのリーグ優勝が決定した。「リーグ戦最後の試合で、しかも優勝がかかった大一番で審判を務めたことは、とても良い経験になりました」と微笑む。
そんな長井さんは、球場入りの際に野球ファンから声をかけられたり、サインを求められることがある。「うれしいのですが、私でいいのかなと思ってしまいます」と照れ臭そうに話してくれた。
執行委員として組合活動にまい進
労働組合では、今期から執行委員に就任し、年俸の改定などNPBとの協議の場にも出席している。今後も組合活動について理解を深め、処遇改善へ向けて活動に従事していきたいと意欲を示す。
最後に、審判員として今後の抱負を尋ねると、「審判技術のさらなる向上に努めるとともに、一試合一試合を大事にしていきます。そして、その積み重ねとして、日本シリーズに出場するのが目標です」と思いを話してくれた。
試合の主役はもちろん〝選手〞である。しかし、〝審判員〞の存在なくして試合は成り立たない。審判員としての責任と誇りを持って力を尽くす長井さんをはじめ審判員の仲間達。プロ野球の発展のために今後ますますのご活躍を祈念。