アジア連帯委員会(CSA)とUAゼンセンの40年
The Commission for the Solidarity with the Asian Underprivileged(CSA)
読者組合員の皆さんのなかには、アジア連帯委員会(CSA)の「救援衣類を送る運動」に協力をしたことがある人も多いと思います。タイやラオスの恵まれない人に衣類を贈る取り組みは約40年にも及びますが、コロナ禍と輸送コスト高騰の影響により、この3年間は実施できずにきました。しかし、CSAの活動は救援衣類を送ることだけにとどまりません。今号では、CSAが誕生した原点を振り返り、本年2月に派遣した「ワーキング・スタディー・ツアー」のレポートと合わせて、活動の歴史と意義を紹介します。
アジア連帯委員会(CSA)の活動の原点はインドシナ難民の救済にあった
CSAの歩み
1975
北ベトナムによる南ベトナムの占拠・共産化によって、迫害を受ける恐れのある階層や新体制に強い不安を持つベトナム人がボートピープルとして国外へ脱出した。
1981
CSAの前身となる「インドシナ難民共済委員会」が発足。日本に定住するインドシナ難民の人権を守り、自立を助けることを目的に活動を始めた。83年には「インドシナ難民連帯委員会」(CSIR)に名称変更し、日本語学校奨学金や慶弔・医療見舞金、入学祝い金などの制度や生活相談などの援助を行った。
インドシナ難民 ベトナム戦争終結後、ベトナム、ラオス、カンボジアのインドシナ3国は相次いで社会主義(共産主義)体制に移行した。新体制による迫害を恐れて周辺国へ流出した人々を総称してインドシナ難民と呼んだ。推計約200万人。日本にも1万人以上の難民が逃れてきて、多くの民間団体が支援活動に当たった。
同盟・宇佐美会長が難民支援に乗り出し連合「愛のカンパ」へ引き継がれる
労働団体も難民支援の活動を開始した。1981年、同盟(全日本労働総同盟)はインドシナ難民救援活動対策委員会を設置。「愛のミルクカンパ」からインドシナ難民救援センターに2000万円を贈呈。また、中古衣類500トンを集約し、同センターをつうじてタイやフィリピンの難民キャンプや周辺の貧困層に配布した。翌82年、同盟はインドシナ難民共済委員会に団体加盟し、活動を全面的に支えた。同盟による支援は87年の同盟解散後、友愛会議を経て、連合「愛のカンパ」に引き継がれ、現在に至っている。
「足は職場に、胸には祖国を、眼は世界へ」 宇佐美 忠信
宇佐美同盟会長(ゼンセン同盟会長)は強いリーダーシップで国際貢献活動に取り組んだ
1989年連合結成。写真は翌年の第1回中央委員会で、「愛のカンパ」から救援金3500万円の目録が贈られる様子
1995
インドシナ難民の帰還先の一つである、ラオスのサイタニ自治区クッサンバット村に贈った1番目の小学校。
2002
貧困や家が遠いなどの理由で高校に通えない学生を支援。ラオス・ルアンパバーン県のサンティパープ高校に寮を建設した。入寮1期生は25名。
インドシナ難民の支援という目標を達成し 貧困や多くの問題を抱えるアジアの人々の支援へ
インドシナ難民連帯委員会(CSIR)では、日本で生活する難民の自立支援と合わせて、タイにある難民キャンプへの支援として、救援衣類(中古衣類)を送る運動を中心に、学舎の建設や学用品・通学服の贈呈などに取り組んだ。1990年代、インドシナの状況が好転し、難民の祖国帰還が始まると、帰還難民の祖国の復興や広くアジアの進歩に役割を果たすため、1993年には「インドシナ難民およびアジアの恵まれない人々と連帯する委員会」(CSIRA)、96年には「アジア連帯委員会」(CSA)へ名称を変更し、運動を発展させて今日に至っている。
困っているアジアの人々と連帯を!教育や生活面の支援を継続
CSAの活動
開発途上国に必要な支援を届けたい
日本で生活するインドシナ難民の自立支援という当初の目的は、90年代半ばまでにほぼ達成することができました。しかし、難民の祖国をはじめとするアジアの開発途上国やタイの難民キャンプでは、継続した支援を必要としていました。こうして、1996年からはアジア連帯委員会(CSA)という新しい名称のもとで、困っているアジアの人々を支援する活動を展開しています。
コロナ禍で実施が困難となった救援衣類(中古衣類)を送る活動に代わって、2021年には不織布マスク15万枚をタイとラオスに寄贈し、両政府からCSAに感謝状が贈られました。鈴木隆CSA副会長は、とりわけ経済発展から取り残されたラオスでの教育支援(小・中学校の建設・補修、高校の寮運営)の重要性を訴え、「運動を築いてきた先輩達の志をこれからも大切に受け継いでいきたい」と語っています。
★CSAの活動は、貧困や格差、気候変動などをなくす世界共通の目標SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みと合致しています。
UAゼンセン「ボランタス基金」で支援 CSAの活動を支えている「連合・愛のカンパ」には、UAゼンセンも毎年「ボランタス(社会貢献)基金」からカンパ金を拠出しています。また、主要三事業に対して、UAゼンセンとして独自にカンパをしています。CSAの活動は、UAゼンセンの組合員である皆さんが支えています。
アジアの人々を保健・衛生面から支援
■救援物資事業
途上国には貧困や、洪水などの自然災害による被災のために、劣悪な環境で生活をしている人達が大勢います。また、新型コロナウイルスなどの感染症にかかり、脆弱な医療体制のために命の危険にさらされている人々もいます。そうした人々に、保健・衛生面で必要な物資を調達して贈ります。
長年の救援衣類を送る活動と同様に「救援物資募金」にご協力ください
ラオスの子供達に小学校を寄贈
■小学校建設・補修事業
最貧国であるラオスの教育環境は深刻な状況です。
学校がないために義務教育を受けられない子供達に、これまでに24の小学校と中学校1校を贈りました。また父兄に労務提供を求めながら計画的に補修を行っています。学校は村のコミュニティーセンターの役割を果たし、地域の発展に寄与しています。
小学校の建設には約1800万円かかります。
「小学校建設・補修募金」にご協力ください
ラオスの小学生〜高校生を教育面で支援
■教育支援事業
ラオスの小学校に教科書、文房具、運動具などの教育器材を贈ります。また、貧困や家が遠いなどの理由で高校に通えない学生のために、ラオスでも指折りの優秀校・サンティパープ高校に寮を建設し、寮生の生活支援を行っています。卒寮生はほぼ全員が進学し、ラオスの将来を担う人材として活躍しています。
年間約600万円で90名の寮生の学業と生活を支えることができます。
「教育支援募金」にご協力ください
アジア連帯委員会(CSA)2023年ワーキング・スタディー・ツアー
CSAの活動視察
CSAは2020年1月以来、3年ぶりにワーキング・スタディー・ツアーを実施しました。2023年2月18日から25日、CSAの会員組織からの参加者と事務局合わせて9名がラオスとタイの支援先や関係省庁を訪問し、活動の状況やニーズを確認するとともに、現地の人々や子供達と交流を深めました。UAゼンセンから参加した末晶利さん(運動推進局)と雪丸貴宏さん(多様性協働局)がレポートします。
ラオス・タイ訪問日記
CSAの支援が生きていた!
2月18日(土)バンコクで乗り継ぎラオスへ
朝8時、羽田空港第3ターミナルに集合。初めて会う参加者と挨拶を行い、簡単なミーティングののち、いよいよラオスへ向けて出発。途中、タイのバンコクでは乗り継ぎ時間が約3時間あり、空港内で夕食を兼ねた結団式を行った。バンコクからラオスまでは空路1時間強。無事、ラオスの首都ビエンチャンに到着し、長い移動時間でクタクタのなか、ホテルにチェックインした。
日本との時差はマイナス2時間。とくに時差ボケもなく初日が終了した。
2月19日(日) サンティパープ高校の卒寮生と懇親
午前中は市内視察を行った。ラオス仏教最大の寺院であるタート・ルアンを見学したのち、地雷博物館を訪ねた。戦争の悲惨さを伝える館内では、とくにクラスター爆弾のむごさと、いまだに毎年多くの人が不発弾の被害を受けているという事実に衝撃を受けた。
夕方は、CSAが学生寮を建設し、支援を続けるサンティパープ高校の卒寮生との夕食懇親会が開催された。30名もの卒寮生が参加し、片言の英語と翻訳アプリを駆使してコミュニケーションをはかった。
卒寮年度ごとに自己紹介があり、外務省などの政府機関の職員や、医師、学校の先生など、卒寮生がラオス国内で重要な仕事を担っていることが分かった。彼らは口々にCSAへの感謝を述べ、「これからも支援を続けてほしい」という声が多く聞かれた。交流をとおして、CSAの活動が子供達の将来を明るいものにし、ラオスの発展に貢献していることを改めて感じた。
2月20日(月) ラオス教育スポーツ大臣と面会
午前中はラオス教育スポーツ省を訪ね、大臣と面会した。大臣はこれまでの支援活動に感謝するとともに、「3年間、コロナ禍により交流がなくなったが、今後交流を再開し、引き続き支援を続けてほしい」「支援に報いるために政府としても努力していく」と語った。CSAの活動がラオスの発展につながり、そのことを国も十分理解し、感謝していることを感じ、改めて活動の重要性を理解する出来事となった。
午後は、在ラオス日本国大使館を公式訪問。現在、ラオスでは物価の高騰と通貨キープ安により、経済状況、国家財政はとても厳しいが、仏教国ラオスでは助け合いの文化があり、経済的に厳しい状況でも犯罪は少ないそうだ。
Topics
麺料理カオプン。パクチーやミントをトッピングして食べる
2月21日(火)待望の新校舎建設が進む ナラオ村の小学校を視察し、子供達と交流
CSAが建設を進める25校目の小学校を視察するため、車でナラオ村に向かった。この小学校の新校舎建設は、シンフォニアテクノロジー労組(電機連合)との協同で昨年から進められているもので、ことし9月の工事完了を目ざしている。この小学校では全校生徒が746名に対して、先生が21名と少ないこと、また幼稚園から高校まで併設し、合わせて約2000名が在学しているとのことだった。校舎が足りず、手づくりの教室で対応していたため、新しい校舎の完成が待ち望まれていた。
未来を担う子供達に新校舎を
文房具やサッカーボールの贈呈式を行い、小学生と交流を行った。CSAのメンバーが2人1組になり、教室で紙飛行機づくりを教えると、子供達はきれいな色の折り紙に目をキラキラと輝かせ、楽しそうに飛行機を折っていた。出来上がると紙飛行機を手に校庭に出て、全員で飛ばした。そのときの子供達のうれしそうな姿が、今回のツアーで一番印象に残っている。
その後、学校が用意してくれた昼食を先生方と一緒に食べた。校長先生からなにやら怪しげなお酒をふるまわれ、その後、9名中3名が食あたりとなった。
夕刻、中国が建設したという新幹線でルアンパバーンに向かった。
2月22日(水)ラオスでも有数の優秀校 サンティパープ高校で学ぶ寮生達と交流
早朝、托鉢と朝市を見学。午前9時にホテルを出発し、サンティパープ高校へ向かった。寮生や先生達による熱烈な歓迎セレモニーがあり、そのなかで校長先生から「学生が寮生活を送りながら勉強できるのは、CSAの支援があってこそ」という感謝の言葉があった。CSAとして今後も継続して支援を行っていくことなどを伝えた後、日本から持参した数学の教科書とスポーツ用品の贈呈を行った。
今回のワーキング・スタディー・ツアーのコーディネーターを務めてくれているヌーソンさんは第1回の卒寮生で、彼から寮生達に激励のメッセージを伝えてもらった。ラオ語の通訳がいなかったため、伝えている内容は全く分からなかったが、寮生達の真剣に聞き入る表情から、熱いメッセージであることが想像できた。
続けて、「バーシーセレモニー」が行われ、ワーキング・スタディー・ツアーのメンバーは村の長老や先生、寮生達から麻のヒモを手首に結んでもらった。これは健康と繁栄を祈るもので、この日は両手首いっぱいにヒモを結んだまま一日を過ごした。セレモニーのなかでは寮生代表の歓迎の踊りが披露され、一同目を見張った。
一連のセレモニー終了後、場所を移して学校側との意見交換を行い、最後に寮生達が生活する寮内を実際に見せてもらった。寮は4人1部屋で、皆一生懸命勉強していることが分かるくらい多くの本が積み上がっていた。
サンティパープ高校視察後、世界遺産の街であるルアンパバーン市内や王宮博物館等を見学した。
【Topics】ルアンパバーン
早朝の托鉢風景(右)。高い位の僧を先頭に、最後尾は小学生に満たないくらいの子供が続く。家庭の事情で出家する子供もいるそうだ。上は、代表的な寺院ワット・シェントーン
2月23日(木)ルアンパバーン県の教育・スポーツ局と連携の継続を確認
ルアンパバーン県教育・スポーツ局を公式訪問し、局長と面会。昨日訪問したサンティパープ高校の状況などについて情報共有を行った。
局長の話では、国の経済状況が厳しいことから教師の質が落ちているとのこと。教育にかける国の予算が少ない状況を考えると、教育に関して不安材料が多くあることが予想できた。
将来有望な高校生に学ぶ環境を提供するために、引き続きCSA、県、サンティパープ高校の三者体制で連携していくことを確認した。
その後、飛行機でバンコクへ向かった。
2月24日(金)最終日はタイで公式訪問 中古衣類カンパに代わる支援について協議
午前中、在タイ日本国大使館を公式訪問。タイの国内情勢や、日本政府がNGOと連携して実施している草の根支援の取り組みについて説明を受けた。救援衣類(中古衣類)カンパについては、ニーズが少なくなっている一方、教育分野ではさまざまなニーズがあるのではないかという提言をいただいた。
続いて国際労働財団JILAF(ジラフ)のバンコク事務所を訪問。現在中止している救援衣類カンパに代わる新たな取り組みについて意見交換を行った。JILAF本部は、ビジネスと人権をテーマに、インフォーマルワーカー(正式な雇用関係にもとづかない労働者)の生活改善に取り組んでおり、今後も連携していくことを確認した。
午前0時、バンコクを離陸。翌25日、日本時間7時10分に羽田空港に無事到着。全行程を終了した。
素晴らしいメンバーと多くの貴重な体験をさせていただいたことに感謝するとともに、このツアーで見聞したことを日本の仲間達に伝えていきたいと思う。
“困っている人を助ける”―社会貢献活動は労働運動の基本
アジア連帯委員会(CSA)の活動は、連合、UAゼンセンなど71の団体会員と53名の個人会員の会費や募金によって支えられています(2022年度現在)。会長、副会長(2名)、事務局長を中心に、9名の常任理事・53名の評議員によって年度ごとに事業計画を決定し、活動を実施しています。UAゼンセンの加盟組合のなかには独自に団体会員になり、評議員として活動に参画している仲間や、ワーキング・スタディー・ツアーに執行部のメンバーや組合員を派遣し、CSAの活動の意義を組織内外に広めるとともに、リーダーの育成につなげている組合もあります。
鈴木副会長は「“困っている人を助ける”という労働運動の基本にも通じる社会貢献活動を、ぜひ組合活動のメニューに加えて、積極的に関わってください」と呼びかけています。
CSA事務局紹介
アジア連帯委員会の事務所に常駐する役職員は4名。写真左から、山﨑髙明事務局長、澤田和男会長、鈴木隆副会長、会計担当の森英代さん。鈴木副会長と山﨑事務局長はUAゼンセン出身。山﨑事務局長は旧ゼンセン同盟衣料産業部会に勤務していた96年に、タイの難民キャンプに救援衣類を届けた経験を持つ。
アジア連帯委員会(CSA)事務所 〒105-0014東京都港区芝2-20-12 友愛会館14階 TEL 03(3769)4177 FAX 03(3769)4178
募金・会費の振込先
中央労働金庫:田町支店(普)1988431
郵便振替:口座No.00140-7-545101
名義:アジア連帯委員会
CSAホームページ http://www.ngo-csa.jp/
UAゼンセン結成10周年 ラオスに26番目の小学校を寄贈!
UAゼンセンは、UIゼンセン同盟とサービス・流通連合(JSD)という二つの産業別労働組合が統合し、2012年11月6日に誕生しました。結成10周年にあたり、海外における社会貢献活動として、CSAと連携し、ラオスに26番目の小学校を寄贈することを決定しました。
今後のスケジュール
2023年4月21日…UAゼンセン松浦昭彦会長とCSA澤田和男会長による調印式
2023年5月中旬 …UAゼンセン、CSAが現地を訪問し、建設予定地を選定
2024年8月ごろ 竣工予定!
ラオスの未来を担う子供達に明るい希望を贈ろう