UAゼンセンの働く仲間の代表として国会で活躍する田村まみ参議院議員。本連載では、私達の生活に関わる政治の動きを分かりやすく解説してくれています。今月はページを拡大し、田村議員が法制化に尽力した「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(困難女性支援法)」を取り上げます。法律ができた意義と、今後いかにこの法律を実際に女性支援の充実に役立てていくか、全国婦人保護施設等連絡協議会(全婦連)の横田千代子会長とともに語り合いました。
女性の人権・自立を重視した新しい支援法を求める声
東京・永田町の参議院議員会館。その9階に田村まみ議員の事務所はある。去る10月20日、田村議員は、全国の婦人保護施設でつくる連絡協議会の会長を務める横田千代子さんを笑顔で出迎えた。
横田さんは、都内の婦人保護施設に40年近く勤務し、施設長を務めて24年を迎える。長年、婦人保護事業の現場で活動する横田さんがずっと問題に感じてきたのは、保護や支援を必要とする対象者が拡大し、ニーズが変わってきているにもかかわらず、70年近く「売春防止法」のもとで保護事業が行われていることだった。
近年、DV被害者(ドメスティックバイオレンス=家庭内暴力)や人身取引被害者(性的サービスや労働の強要など)、ストーカー被害者の保護が新たに必要になると、そのたびに売春防止法を一部改正してしのいできた。
「売春防止法は基本的に、処罰・更生を目的としているため、人権擁護や自立支援の要素が不十分な点が問題です」。横田さんは全国婦人保護施設等連絡協議会(全婦連)会長として、婦人保護事業のあり方の見直しと「女性自立支援法(仮称)」の制定を求めて、講演会やシンポジウム、国会議員への要請を続けてきた。そして、2018(平成30)年からは厚生労働省の「困難な問題を抱える女性への支援のあり方検討会」のメンバーとして、女性達が必要としている支援について訴えてきた。
こうした声を受け、一昨年(2021年)末、「困難女性支援法」制定へ向けて国民民主党としても取り組みを本格化し、参議院厚生労働委員会に所属する田村議員が中心的役割を担うこととなった。田村議員は各方面と勉強会を重ね、実効性ある支援の実現へ向けた課題について厚生労働大臣を質した。
暴力(DV)や生活の困窮など困難を抱えた女性への支援強化を
田村まみ議員が厚労大臣質す(2022年4月12日厚生労働委員会で質疑)
田村まみ議員は2022年4月12日の参議院厚生労働委員会で、配偶者からの暴力(DV)や生活困窮など、困難な問題を抱える女性への支援に関する法案に関して質疑に立ちました。
田村議員は最初に、困難を抱えた女性への公的支援の現状(2020年時点)と問題点について取り上げました。
全国で婦人相談所は49カ所、婦人保護施設は39都道府県に47カ所と設置が進んでいないうえに、対応に当たる婦人相談員も全国で1533名と、不足している点を指摘。さらに婦人相談員の86%に当たる1313名が非常勤であることに言及し、就労支援などを含めた長期的支援を行うためにも婦人相談員を常勤とし、安定的な支援を行うことを求めました。
加えて、後藤茂之厚生労働大臣(当時)に、「どのように実効性を持った支援を行い、その効果を検証するのか」質しました。後藤大臣は、「1人ひとりの背景、状況に応じた包括的な支援が重要となる。福祉、ハローワーク、民間団体と連携強化をはかり実現したい」「効果の検証については、自治体や現場の声をていねいに聞いていきたい」と答弁しました。
これに対して田村議員は、「実効性を確保するには、婦人相談員の処遇改善が一番重要」と述べ、実行を重ねて求めました。
*
参議院厚生労働委員長によって提出された法案は衆議院に送られ、5月19日衆議院本会議で、全会一致で可決、成立しました。
ニーズが拡大するなか行政支援は不十分な状況
現在、横田さんが施設長を務める保護施設では23名の女性達が暮らしている。暴力から逃れるなど、さまざまな事情で施設を利用しているが、1日も早く社会に戻って自立した生活を送ることを目ざしている。
対応する職員側の体制はというと、「国の配置基準は、66年間変わらず2名のままです」と横田さんは憤慨する。「売春防止法ができた当時、婦人保護施設の職員は、女性達が罪(売春)を繰り返さないように監視することが仕事だったのでしょう」と語る。女性達の自立支援や回復支援を行うための要員という発想はまるでなかったことが分かる。施設では、国や都道府県の配置基準を超える職員のほぼ全員が非常勤という。
田村議員が厚生労働委員会で取り上げたとおり、女性保護の状況は厳しい。全国には婦人保護施設が設置されていない県もあり、数も十分とは言えない。助けを求める女性達の窓口となる婦人相談所や配偶者暴力相談支援センターの数も不足し、婦人相談員は非常勤が9割近くを占める。
田村議員は、法整備に関わるなかで、「“困難な問題を抱える女性”は、決して特定の人ではなく、あらゆる女性が陥る可能性があると感じました」と語る。だれしも家庭内暴力から逃げるために住む家や仕事を手放さなければならなくなったら、たちまち自力で生活をしていくことが困難になるだろう。
「185万名の組合員の6割以上が女性で(117万名)、そのうち8割近くがパートタイマーなどの短時間組合員であるUAゼンセンの組織内議員としても、『困難女性支援法』を成立させる必要があると思いました」と語る田村議員。「なぜ女性だけ支援するのかと問われたら、暴力による支配や性的搾取は女性であるがゆえに直面することが多い問題だと考えられるからです」と、力を込めた。
心身に深く傷を負った女性が置かれている状況に理解を
これまで、困難な問題を抱える女性達が置かれている状況や支援の内容については、ほとんど知られてこなかった。
「暴力や虐待、性的搾取を受けてきた女性が保護施設で回復し、人生をやり直せるようになるためには、専門的なスキルを持った支援員に加えて、トラウマ(心的外傷)に対応できる心理職の配置が必須ですが、現状は、47ある保護施設のなかで心理職が配置されているのは10施設のみです」「これまで国は、問題の根本を社会にではなく個人に向けてきた」と語る横田さん。「国が費用を負担して心理職を配置し、さらに『性暴力回復支援センター』をつくってほしい」と訴える。
また、保護施設で暮らす女性達の生活費などの実態についても教えてくれた。「居室と食事は無料で、必要に応じて日用品や被服は支給されますが、各自が自由に使えるお金(おこづかい)は1円もありません」。アイスクリーム1つ買えず、バスに乗ることすらできないのだ。そのため横田さんが勤務する施設では、むかしからみんなで内職に多くの時間を費やしてきたそうだ。いまは作業所に織機を設置し、女性達がみずから織った布で小物をつくるなどして、収入につなげている。
保護施設の女性達がつくった手芸製品を参議院議員会館内の『セブン-イレブン』で販売
保護施設で暮らす女性達にとって大切な収入源だった手芸製品の販売。しかし、コロナの影響で、製品を置いていた喫茶店が休業を余儀なくされ、販売の手段を失ってしまった。それを知った田村議員は、参議院議員会館内のセブン-イレブンで販売できないかと考えた。
参議院議員会館内のセブン-イレブンは、セブン&アイ・フードシステムズが運営している店舗の1つ。田村議員が、UAゼンセンの仲間であるセブン&アイ・フードシステムズ労働組合の北山淳委員長に、保護施設の女性達の手芸製品を参議院議員会館内のセブン-イレブンで販売することができないか相談したところ、「女性達の支援にぜひ協力したい」と会社の快諾を得られ、販売コーナーが設けられることになった。場所柄、議員や秘書の方々が購入しているという。田村議員もイヤリングやペンケースを愛用している。
施行まで1年余り 法律に魂を入れ確実な支援へ
超党派の議員立法「困難女性支援法」は、2022年5月19日に衆議院本会議で、全会一致で可決、成立した。5月25日に公布され、2024年4月1日に施行される。
長年の活動が実った横田会長は、「法律ができたのを機に、多くの人がこの問題に目を向け、社会全体で取り組んでいくきっかけになってほしい」と、法整備の意義をかみしめる。
法案には、困難な問題を抱える女性の福祉の増進や人権の尊重が明記され、安心して自立して暮らせるように包括的な支援を切れ目なく実施することなどが盛り込まれた。なかでも、売春防止法に規定されていた「補導処分」が削除されたことを横田会長は評価する。
田村議員は、「ここからがスタートです。11月に法律の『基本方針等に関する有識者会議』が立ち上がり、全婦連会長として横田さんもメンバーに加わっています。現場の声を反映させ、法律に魂を入れていってほしいと思います」と、期待を込める。さらに、「今後重要となるのは法律で決まったことを実施していくための予算措置」と、田村議員は語る。「各事業にいくら予算を付け、確実に実施できるのか、しっかり見ていきたいと思います」と決意を語った。法律の施行まで1年余り、やらなければならないことは多い。
横田会長は、「支援法が機能するのを見届けるまで、元気に頑張ります」と微笑んだ。
田村 まみ 参議院議員 1976(昭和51)年生まれ。1999(平成11)年、ジャスコ(現イオンリテール)入社。食品スーパーのマックスバリュで、デイリー部門(豆腐や納豆)ひと筋に勤務。2006(平成18)年から、組合専従(中央執行委員)。2019(令和元)年7月の第25回参議院議員選挙(比例代表)で初当選。厚生労働委員会、予算委員会、消費者問題等特別委員会などに所属。UAゼンセン組織内参議院議員として国会で活躍中。
全国婦人保護施設等連絡協議会 横田 千代子 会長 1942(昭和17)年生まれ。東京都の社会事業学校で社会福祉主事の資格を取得。1984(昭和59)年、都内の婦人保護施設に指導員として就職。1999(平成11)年、施設長に就任。2005(平成17)年から全国婦人保護施設等連絡協議会の会長を務め、婦人保護事業のあり方の見直し・売春防止法改正を訴える。また"性暴力禁止法をつくろう”ネットワークや「ポルノ被害と性暴力を考える会」を立ち上げ活動している。