尚美学園大学総合政策学部 眞下 英二 教授
本年7月実施の参議院議員選挙において、国民民主党は、多くの有権者から支持を集め、大躍進を果たしました。一方、同様に議席を伸ばした政党として、参政党があります。今号では、紙上セミナーとして政界で存在感を増す参政党について、尚美学園大学総合政策学部の眞下英二教授による「政策研究フォーラム」での講演および『改革者』11月号で発表された論考を再構成してお届けします。

多くの支持を集めた国民民主党と参政党
第27回参議院議員選挙(本年7月20日投開票)において、自民党は改選52議席を39議席へと大きく減らしました。一方、国民民主党は改選4議席に対して、17議席を獲得するという大躍進を果たしました。
国民民主党とともに躍進した政党に、改選1議席から14議席に大きく伸長した「参政党」が挙げられます。これまで、参政党は、新型コロナ感染拡大時の反ワクチン的言動や無農薬農業への過度な傾倒などの主張から、「カルト(特定の人物や事物に対する熱狂的な崇拝を行う集団)政党」と認識されていました。
このような性質を持つ参政党が議席を伸ばした背景について、報道等では、①若年層による支持②SNSを中心とした支持拡大③「日本人ファースト」「核兵器は安上がり」などの過激な発言に対する支持④自民党から離れた保守層の支持の4点が主に指摘されています。
しかし、これらは参政党躍進の要因を表層的に表現しているに過ぎません。参政党の本質を理解するためには、「なぜ、参政党が有権者から支持されたのか?」という点こそが重要となります。
有権者の「現実」を捉えた主張がSNSで拡散
「ポピュリズム」と反エリート主義思想
まずは、参政党という組織自体に注目したいと思います。
参政党は2020年に結党されていますが、勢力を伸ばしたのはごく最近です。現時点の一般的なイメージは、「神谷宗幣代表のカリスマ(多くの人を魅了する強い力)で成立しているカルト政党」の印象を受けます。
また、彼らの政治的立ち位置は、しばしば「極右(過激な保守主義、超国家主義、権威主義の傾向を持つ政治思想)」と評価されます。これらに加えて、「ポピュリズム(一般大衆の不満や要求に訴えかけ、人気を得ることを第一とする政治思想)政党」といった評価もあります。
この「ポピュリズム」という評価には、否定的なニュアンスが込められています。近年、世界各地で問題となっているポピュリズムの背景には、「政治的疎外感」があるとされています。これは、「本来は民主政治の主役である自分自身が、民主政治から仲間はずれにされている」と感じることです。この認識は「一部のエリート(選ばれた人々)が政治を独占・支配している」という感情と結びつきやすいです。
その結果、有権者は反エリート主義に陥り、疎外の原因を外国人などの他者に投射して攻撃をし、あるいは政治に対する無力感を抱くようになります。これが、いわゆる「危険視されるポピュリズム」の構造です。
参政党に共感する有権者は、概ね官僚や自民党政治に批判的であり、既存のメディアを「オールドメディア」と呼んで批判的な態度を取っています。これらは、反エリート的な性格の表れと捉えることができます。
一方で、参政党の組織機構に目を向けると、国会議員18名、地方議員155名(本原稿執筆時点)を抱え、全国に支部を置くなど、すでに全国的な組織を持つ政党となっていることが分かります。また、党員数に着目すると、比較的高額な党費にも関わらず、2024年末時点で7万名弱の党員がいるとされ、非常に大きな広がりを見せています。
このように、強い忠誠心を持つ党員に支えられた組織は、選挙戦において有権者の参政党に対する動員という面で、一定の効果をもたらしたと考えられます。
有権者の「現実」が参政党支持を後押し
続いて、参政党に対して積極的に投票した有権者の属性に注目したいと思います。各種調査によると、10〜40代までの層、とりわけ30〜40代が主要となっています。年齢層以外の要素として、関連付けて論じられているものに、外国人問題が挙げられます。
全国的な統計で見ると、外国人の居住者数が参政党の得票に影響を与えたという証拠は見出せません。しかし、地域別に見ると少し事情が変わります。例えば、外国人との付き合い方が話題になる地域では、外国人の総人口比が参政党の得票に影響を与えた可能性を見出せます(別項)。
これらの地域では、急激な外国人の増加があり、共存の仕組みが十分に整備されていません。参政党の掲げた「日本人ファースト」という主張は、このような地域において、外国人問題を「現実」として実感している層の共感を集めた可能性があります。
時に過激な主張が目立つ参政党の考え方を後押ししたものとしては、SNSがあります。SNSには、自分と類似する価値観を持つ者とばかり交流することで、同じような意見ばかりが反響してくる「エコーチェンバー」という特性(別項)があります。参政党の主張した「日本人ファースト」や「核兵器は安上がり」といった言説は、これによって広く拡散していきました。
重要な点は、SNSをつうじてこれらの言説にふれ、それを拡散していった者達にとって、外国人問題や核保有の必要性は「現実」であるということです。ほかに、有権者の「現実」に向き合ったことで支持を獲得した例としては、国民民主党が挙げられます。国民民主党は2024年から、いわゆる「年収の壁」見直しを掲げて議席を増やしてきました。この「年収の壁」は、現役世代にとってはまさに「現実」に直面している課題です。国民民主党と参政党は、SNSで言及される回数が多く、SNSをつうじた主張が有権者の「現実」に訴求するものであった点に共通項があります。
近年、若年層においては、新聞・テレビ等に接触する機会が減少し、これらに対する信頼感さえも低下しています。多くの若年層は従来のメディアではなく、インターネットをつうじて情報を摂取しています。そのため若年層は、必然的にSNSをつうじて「現実」を認識していると言えます。
彼らの感じる「現実」は誤りではありません。しかし、彼らが体感し、合理的選択の根拠とした「現実」はSNSにより増幅されており、事実とはかけ離れた言説だとしても、疑いのない「真実」と認識されている危険性があります。
異なる意見を排除せず対話することが重要
「現実」の否定でなく「政治的対話」が必要
これまで、参政党の組織や支持者の属性などから、参政党が躍進した要因を明らかにしてきました。具体的には、ポピュリズム、「現実」、SNSの3点です。この「現実」とは、主にSNSをつうじて獲得した「現実」を意味します。これは、あくまで「現実」の一面を捉えたものに過ぎず、全体像を捉えたものではありません。参政党に投票した有権者には、SNSの情報だけにもとづき、それが「現実」であると認識した者も一定数いたことが想像できます。
最後に、彼らの主張の中核をなす「現実」を頭ごなしに否定することは、逆効果になります。ポピュリズムへの対応としては、「対話」が重要です。これは、ポピュリズム的な主張を否定するのではなく、議論の俎上に載せることで、過激化を封じるという考え方です。
〇外国人居住者比率と参政党得票率の関係
第27回参議院議員選挙における参政党の得票率は全国平均で12.55%。一方、外国人居住者比率を軸に、地域別に見ると、特定の地域で得票率が高いことが分かる。例えば、外国人との共生が話題に上がる群馬県・栃木県・茨城県の県南部や国際空港を有する北海道千歳市、リゾート地のニセコ町や倶知安町などで得票率が高くなっている。これらのことから、外国人に関する話題が身近な「現実」と認識されている地域では、参政党の主張が有権者に響き、得票率が上がっていると推測される。
〇「エコーチェンバー」とは?
SNSなどで自分と似た意見を持つ人々と交流することで、自分の意見と同じような情報ばかりが反響し、その考えがより強固になる現象。多様な意見にふれる機会が減ることは、誤った情報や偏った見解を真実だと誤認する危険性を生じ、社会的分断を深める原因とも言われている。参政党による「日本人ファースト」や「核兵器は安上がり」といった主張の拡散に寄与したと考えられる。
※講演資料をもとに作成
