ちよだ鮨労働組合 ティリ ナインさん
ティリ ナイン。1992(平成4)年7月生まれ。ミャンマーの旧首都・ヤンゴン市出身。外国語大学を卒業後、2012年に来日。日本語学校に通いながら、「ちよだ鮨戸越銀座店」でアルバイトとして勤務。アルバイトを続けながら大学院へ進学しビジネスに関する日本語を学ぶ。卒業後、2016年4月、ちよだ鮨の正社員に。翌年の6月には店長を務め志村坂上店、妙蓮寺店を経験。運営企画部を経て2020年4月から教育訓練部に勤務。労働組合では、2020年から執行委員を務め教育宣伝部を担当。新入組合員セミナーやダイバーシティ委員会を受け持ち、イベントの準備・運営に携わる。来日してから暮らす東京・蒲田の観光大使としても活躍。趣味は多く映画鑑賞、料理、登山など。日本の四季が大好きで、お花見や紅葉狩りなどを楽しんでいる。現在、ヤンゴン市に暮らす両親と弟、中国在住の妹の5人家族。
教育訓練部で新卒社員の研修を行うティリ ナインさん
本社がある聖路加タワー1階には持ち帰りすし専門店「聖路加タワー店」を併設。お客さまが絶えない人気店で、キッチンには研修スタジオを完備し、実地研修や商品開発などを行っている

外国籍の仲間と会社をつなぎ おいしいおすしを届けていく

アルバイト時代から外国籍の仲間の通訳や面接のサポートで活躍

ちよだ鮨はスーパーや商店街などでおなじみの持ち帰り(テイクアウト)すし店を中心に、回転すし店や立ち食いすし店(『築地 すし兆』は本誌2023年5月号で紹介)など188店舗を展開する。新鮮でおいしい本格江戸前すしを、1人でも多くのお客さまに気軽に召しあがっていただきたいと「すしの大衆化」を目ざしている。従業員約2400名(組合員2000名)のうち、127名(組合員126名)が外国籍の方で、その先駆けとなった女性に会いに向かった。

研修スタジオで新卒社員に食育の研修を行うティリさん(奥)。すしを握り試食することで食への知識を深めてもらう

東京・築地のオフィス街にそびえたつ聖路加タワー。37階にある本社を訪ねると、ティリ ナインさんが労働組合の植木善久委員長と共に出迎えてくれた。ティリさんは物腰が柔らかく笑顔が素敵な方。さっそく話を聞くと、親しみやすい人柄が伝わってきた。ティリさんは2012年にミャンマーから留学生として来日し、日本で暮らして12年になる。子供のころから見ていた日本のアニメで日本語にふれ、「なかでも『NARUTOーナルトー』で日本語を覚えました」と微笑む。本格的に日本語を学びたいと外国語大学で日本語を専攻し、卒業後は日本への留学を希望した。「大学の教員だった母が、留学に反対する父を説得してくれました」。来日すると乗り物酔いを忘れるほどワクワクしたそうだ。

研修ではチームづくりの一環で、地図を使って目的地まで行くミッションに取り組む。研修生を見守るティリさん(左端)

日本語学校(東京・大田区)に入学して間もなく、ちよだ鮨でアルバイトをしていた知人の紹介で、持ち帰りすし専門店「戸越銀座店」でアルバイトとして働き始めた。当時、地区長を務めていた植木委員長は「日本語が堪能で、仕事も手際が良く頼りになる存在でした」と振り返る。とはいえ、食材を覚えるのは苦労したとティリさん。衛生担当として手洗いを推奨する際に、ていねいに話そうと「お手洗いをお願いします」と言ってしまったエピソードも交えながら、「スタッフの皆さんは、温かく親切で働くのが楽しかった」と微笑む。勉強熱心なティリさんはアルバイトを続けながら大学院に進み、ビジネスに関する日本語などの知識も深めた。

信頼を寄せる植木善久委員長(左)と組合事務所で。ティリさんは植木委員長から、「執行部でも力を発揮してほしい」と誘われ、期待に応えている
教育訓練部は、3名体制でチームワークは抜群

そんな折、会社でミャンマーの留学生を雇用するプロジェクトがスタートし、ティリさんは説明会で通訳を務めた。さらに、面接を受ける学生達にはミャンマーではサンダルが普通だが日本では靴を履くこと、いわゆる“ミャンマー時間〟で行動してはいけないなど文化の違いを伝えた。受け入れ側の店長には、留学生の就労時間制限・週28時間をフルに働きたい学生がいることなどを伝え、橋渡し役として貢献した。これを機に、多くの留学生が店舗で働くようになったそうだ。

気軽に相談できる執行委員として 一層働きやすい環境目ざす

2016年4月、大学院卒業と同時に社員として採用された。社員は店長経験が必須で、ティリさんもさまざまな研修を経て1年2カ月後に店長に。2店舗を経験するなか、売り上げが落ちる悔しさも味わった。「お店の仲間と力を合わせ、データ分析から欠品率の改善などを行い乗り越えた」と語る。その後、運営企画部を経て、教育訓練部に勤務して4年になる。キャリアに沿った研修を行う部署で、ティリさんは新卒社員を担当し、店長になるまでの1年間の研修に携わる。社会人のマナーから始まり、企業の理念や目標、商品の鮮度の見分け方、諸表の見方などを教えている。「店長になるスキルを身につけてもらうため責任重大です」と表情を引き締める。一方で、人前で話すのは苦手で、先輩のアドバイスや研修風景を参考にして克服に努めたそうだ。つねに周りに感謝し、声がかかれば外国籍のスタッフの面接のサポートに入り、仲間の相談にも親身に応えている。

定年まで働くことを目標に 国籍に関わらずイキイキと前進

「女性や外国籍の仲間に寄り添った活動を進めるうえでティリさんの力が必要だった」と植木委員長。ティリさんは、信頼を寄せる植木委員長の頼みならと執行委員に就任して5年目を迎える。月1回の労使協議会では活動報告を行い、新入組合員セミナーやダイバーシティ委員会などでも活躍する。「今後は情報発信や外国籍の仲間へのUAゼンセン共済加入促進にも力を注いでいきたい」と話す。「気軽に相談できる執行委員でいたいです。職場の皆さんが一層働きやすい環境にしていきたい」と意欲を示す。


新入組合員セミナー&交流会の模様。ティリさんは運営事務局を務め、終了後のバーベキューでは、「なんでも相談してくだい」と一人ひとりに声をかけて回った
組合では昨年、職場の仲間にカスタマーハラスメントのアンケート調査を実施。執行部10名で田村まみ組織内参議院議員のもとを訪れ、職場の実態を訴えた。ティリさんは田村議員のパワーにふれ、「カスハラ撲滅の政策を必ず実現してくれる」と心強く思ったそうだ

専従の植木委員長を中心に活動を進める中央委員の皆さん。ことしの中央委員会では「やさしい日本語研修会」を実施し、外国籍の仲間やお客さまへ短い文で分かりやく伝える話し方を学んだ。右上は感想を述べるティリさん。日本語の使い方を見直す機会になったそうだ

ティリさんはことし日本の永住権を取得したそうだ。「定年までちよだ鮨で働きたいです」と希望を語る。また、国軍のクーデーター以降、国軍の弾圧が続くミャンマーで暮らす両親を心配し、日本に呼びたいと話す。

「食べることが大好き」と話すティリさん。「おいしい物を食べると幸せな気持ちになります。おいしいおすしを提供し、お客さまを幸せにしていきたい」と目を輝かせた。国籍に関係なく生きいきと前進するティリさんは輝いていた。

総合サービス部門が開催した外国人組合員交流会では、外食産業の店舗や工場で働く仲間達と意見を交換。同じ悩みなど貴重な話を聞け、活動するうえで大変参考になったそうだ