女性でも、育児中でも 組合活動ができる組織に

産経グループ労連 会長
産経労働組合 委員長
木村 久美子さん
2000年産経新聞社入社。『夕刊フジ』の広告・営業を経て産経デジタルに出向。その間、組合活動に携わる。職場委員を経て2014年に執行部へ(非専従)。18年に組合専従となり副委員長、22年に委員長就任。
産経グループ労連 事務局長 産経労働組合 書記長 小林 佳恵 さん
2012年産経新聞社入社。社会部に勤務していた22年、当時書記長だった木村さんから熱烈な要請を受け組合専従に。同年秋、書記長に選任される。
組合活動にかかわるきっかけ

組合のレクリエーションに参加し組合活動に携わっている人達に魅力を感じた

2022年、木村久美子委員長の就任は産経労働組合にとって〝二重の初〞だった。一つは、組合結成(1946年)以来初となる女性の委員長。もう一つは、編集局(記者)以外から出た初めての委員長だった。
つまり、大手新聞社・産経の労働組合では歴代、記者出身の男性が委員長を務めてきた。一体、どのような経緯で木村委員長が誕生したのか、また、それによって組織にどのような変化や成果をもたらしているのか、興味津々で産経新聞東京本社内にある組合事務所を訪ねた。

春らしいワンピース姿で出迎えてくれた木村委員長は、「この日の取材のために購入しました」と笑いながら、雰囲気を和ませてくれた。明るく飾らない人柄が伝わってくる。

「入り口は組合が主催するレクリエーションでした」。毎年スキーツアーやバーベキューなどに参加していた木村さんは、運営に当たる組合の人達が皆いい人で、組合に好印象を持ったそうだ。その後、「一緒に組合活動を」と誘われ、2014年に執行委員(非専従)になった。業務で数字やデータと向き合うなか、人間味あふれる組合活動は〝部活〞のようで楽しかったと語る。

女性組合員の相談に当事者の立場に立って 応えられる女性組合役員が必要

長男の出産後、なかなか第2子に恵まれなかった木村委員長は、仕事と組合活動を続けながら不妊治療を受けていた。執行委員を非専従で2期4年務めた2018年のこと、当時の久保木善浩委員長から組合専従の話が持ちかけられた。産経デジタルに出向して12年、そろそろ新しい環境を求めていたこともあり、木村さんは専従の副委員長を引き受けることにした。ただし、「もう一人子供が欲しい」ことを伝え、産休・育休に入る可能性があることを承知してもらった。「久保木さんとは同期で気心も知れ、なんでも話すことができたのはありがたかったです」と木村委員長は語る。

副委員長就任の翌年、待望の第二子を妊娠し、任期半年を残して産休に入った。「40歳を過ぎてからの妊娠・出産だったため、皆さんに体調を気遣っていただきました」。そして、2020年春、無事元気な男の子を出産した。
育休を終え、組合に復帰した木村さんは、久保木委員長はじめ仲間に感謝し、組合活動に責任を持って取り組む覚悟を決めたと語る。「女性の組合役員を増やそうと思ったら、『これから出産する可能性』を念頭に置くべきです。私も周囲の理解とフォローがなければ、続けられなかったと思います」。以来、感謝の思いをエネルギー源に、精力的に活動に取り組んでいる。

2022年秋、委員長に就任。
木村委員長になって、女性組合員からの相談が増えたそうだ。出産や育休、不妊治療の不安などを抱える職場の女性達にとって、当事者の気持ちが分かる人からアドバイスをもらえるのは心強いことだろう。生理や更年期など、働くうえでの女性特有の課題についても「隣のおばちゃんに話すように相談してほしい」と語る木村委員長。「組合には女性の役員が必要だと思います」と続けた。

さらに、「日本においても女性が生涯働き続ける社会になり、今後、職場の女性比率が下がることはないと思う」と木村委員長は訴える。そのため組合では、5年先を見据えた取り組みを始めたという。その一つが、「産経PX(パタニティ・トランスフォーメーション)」。「広告代理店・電通の取り組みを参考にしたもので、『男性の育休取得を促進することによって組織を変革しよう』というプロジェクトです」(別項参照)。

「産後パパ育休」の創設を機に、労使有志で「産経PX(パタニティ・トランスフォーメーション:父性と変革を組み合わせた造語)」のプロジェクトを立ち上げた。写真上は、取り組みの一環として行った子育て中の女性組合員による座談会の模様。木村委員長と小林書記長(右から二人)も自身の経験を語った。プロジェクトでは社員限定のホームページ(下)を公開し、座談会の報告記事や育児に関する制度の案内などを随時掲載している。

長男が保育園に通い出した13年前は、送り迎えをするパパはめずらしい存在で、有名人になっていたが、女性がサポート的な仕事ではなくなり、男性も「育児や家事は奥さんに任せて、ボクは仕事」とは言っていられない状況になっていると、木村委員長は指摘する。

「これまで女性達が仕事と育児・家事の両立で悩んできたことが、これからは男性の悩みになると思います」。
「産経PX」プロジェクトの目標は、産後パパ育休の理解促進にとどまらず、最終的には「男性」や「育児」にかかわらず、すべての働く仲間が仕事と家庭(プライベート)をいまよりも充実させることだそうだ。
木村委員長は、若い男性組合員(新米パパ)にとっても、頼れる相談相手になることだろう。

多様性に対応できる組織とは

組合役員にいろいろな人がいることが大事 労働組合にこそ〝多様性〞が求められている

産経労働組合では委員長と書記長をともに女性が担っている。小林佳恵書記長が組合にかかわるようになった経緯を尋ねた。

2人が知り合ったのは2020年の春。当時、社会部の記者を務めていた小林さんが、同僚の紹介を受け、木村さんに仕事と育児の両立について相談した。そのなかで小林さんから労働組合について質問を受けた木村さんは、直感的に「組合活動を一緒にやるなら彼女しかいない」と感じたそうだ。「着眼点が素晴らしく、信頼できる人だと分かりました」。

一般的に、組合活動は子育て中の女性には無理だと考えられてきた。組合は〝人〞が相手のため〝定時〞がないからだ。その結果、時間をフルに使える男性しか組合活動に携わらなくなった。木村さんはこの現状を変えるため、「できる範囲でかかわってほしい」と小林さんを説得したという。

木村委員長の持論は、「仕事と家庭の比率は一人ひとり違う」。「なにを一番大切にしたいか、という価値観にもグラデーション(濃淡・階調)があり、どんなリソース(資源)を持っているか、という物理的グラデーションも人さまざまです」(上図参照)。ひと言で「子育て中の女性」と言っても、一方は実家が近く、片や飛行機で行き来するような遠方にあるかもしれない。「私と小林書記長でも状況は全く異なります。それが組合員の多様性であり、組合の三役に女性が二人いる意義だと思います」。
「小林さんの持っているリソースのなかで、仕事と育児のバランスを取ってほしい」という木村委員長の言葉に打たれ、現在、小林さんは育児短時間勤務制度を利用しながら専従書記長の職務にまい進している。

木村委員長は就任してすぐに会社から合理化の提案を受けた。昨年1年間は会社との交渉に明け暮れたという。その間、飲み会を絶ち、スポーツクラブに通うようになったそうだ。「運動中は問題に集中することも、逆に無心になることもできました」。委員長ならではの苦労が覗えた。

最後に、木村委員長に今後の抱負を尋ねると、「すべての仲間が仕事とプライベートを大切にできる組織にしたい」と決意を込めた。そのために多様な選択肢を提供していきたいと語る。さらに、「人間関係が希薄ないま、ヨコのつながりを醸成できるのは労働組合だけ」と力を込める。木村委員長の本領発揮である。

産経労働組合、産経印刷労働組合、産経制作労働組合の3組織で産経グループ労連を構成。木村委員長と小林書記長は労連の会長・事務局長を兼務する。

【トップ写真】東京・大手町にある産経新聞東京本社。木村久美子委員長(右)と小林佳恵書記長が手にしているのは『産経新聞』とそのウェブサイト。24時間世界に情報を発信する組合員の仲間達を全力でサポートする

「次は女性の委員長がいいな」。久保木善浩前委員長は就任当時、男性ばかりの組合の景色を見て、心に誓ったそうだ。いまの日本は、おじいちゃんとおっさんばかりで行き詰まっている。女性の社会進出も進んでいないと感じていた久保木前委員長。「これではいけない。うちの会社から変えていきたい。そのために労働組合が起爆剤になろう」と、自分の後任に木村さんを推薦した。「女性の数合わせではなく、木村さんが適任だと考えました」。 
木村さんとは同期入社で、部署も『夕刊フジ』で一緒だったため、人柄はよく知っていた。「木村さんは周りを照らしてくれる太陽みたいな人です。天照大御神はこんな方だったのではないかと思います」。
木村委員長の活躍ぶりや仲間達から慕われている姿を見て、久保木前委員長は「思ったとおり、うまくいきました。安心して見守っています」と微笑んだ。