労使ですすめるキャリア形成支援 セミナーを開催
職業人生の長期化や仕事・働き方の変化が進むなか、働く人のキャリア形成が問われています。UAゼンセンはキャリア形成支援の取り組みについて、労働条件闘争方針の要求項目とし、中期ビジョンのなかでも取り組むべき課題の第一として掲げています。それをふまえ、労働条件局は9月1日、キャリア形成支援へ向けたセミナーを開催しました。そこで行われた講演の概要をお伝えします。
「働く人のキャリア形成をどう支えるか」
開志創造大学大学院 教授 浅野 浩美 氏
キャリア形成支援が求められる背景とは
初めに、浅野浩美氏が「働く人のキャリア形成をどう支えるか」と題し講演。キャリア形成を支援する重要性と、企業や労働組合が果たすべき役割について解説しました。
冒頭、キャリア形成支援が求められるようになった背景として、①職業人生の長期化②仕事や求められる能力の変化③本人がキャリアを考え、学び、選択する方向へ政策が向かっていること④企業も人材を投資対象・価値創造の源泉として育てる方向へ進んでいることが挙げられると切り出しました。
そのうえで、実際のキャリア形成は本人の意思だけでなく、組織、仕事、家庭、労働市場など、多様な環境要因との相互作用のなかで行われると提起。自律的なキャリア形成とはなんでも自分で選択することではなく、与えられた経験を意味づけし、自分なりに次へつなげていくことだと説明しました。
悩みや課題把握には組合の強みが有効
浅野氏はキャリア形成を支える要素に「仕事」「学び」「対話」があるとしています(図A参照)。

「仕事」については、日々の業務や新しい役割への挑戦が能力開発につながるとし、本人の希望を反映した異動や挑戦機会を提供する仕組みが重要であると述べました。
「学び」については、研修や自己啓発だけでなく、仕事経験の振り返りによる学習が重要で、企業にはOJTや研修、自己啓発支援などをつうじた学びやすい環境づくりが求められると話しました。
「対話」については、キャリアを一人で考えることには限界があり、上司や同僚、先輩などとの対話をつうじて将来の方向性が見えてくるとしたうえで、現実には自身の希望や不満を会社へ伝える従業員は少なく、課題があっても声を上げない人が多いこと、声を上げても十分な改善につながらない場合があることなどを、調査データとともに示しました。
こうしたなか、労働組合が果たせる役割として3点を掲げています。第1に、「働く人の声を聴く」こと。制度に対する本音や、まだ表面化していない悩みや課題を把握することは、会社にはない組合の強みであるとしています。第2に、「場をつくる」こと。キャリアについて気軽に話し合い、経験や悩みを共有できる機会を設けることで、仲間同士の学びと気づきを促進できると説いています。第3に、「会社につなぎ働きかける」こと。仕事経験の機会、学習支援、キャリア面談などが実際に機能しているかを確認し、職場の課題として取り上げていくことが有効であると語りました。
キャリア形成支援には労使の協力が重要
浅野氏は「キャリア形成は本人だけ、会社だけに任せるものではない」と強調。「『本人』は仕事や将来について考え続けることが求められ、『企業』は仕事・学び・対話の機会を整備する責任を負う」とし、「『労働組合』は、働く人の立場から現場の実態を把握し、声を集め、企業へ伝えることで、キャリア形成しやすい職場づくりを支える存在となる」と結論付けました。
最後に、「労使が協力して一人ひとりの成長と働きやすい職場環境を実現することが、これからの時代におけるキャリア形成支援の重要な方向性」と示唆しました。
「企業におけるキャリア形成支援のしくみづくり」
ユースキャリア研究所 代表 高橋 浩 氏
キャリア支援施策は職場を支える組織施策
次に高橋浩氏が「企業におけるキャリア形成支援のしくみづくり」と題し講演。企業におけるキャリア形成支援のしくみである「セルフ・キャリアドック(以下SCD)」について、その意義と導入・定着のポイントを解説しました。
冒頭で「SCDとは企業が人材育成ビジョン・方針にもとづき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、また、そのための企業内のしくみのこと」と定義を確認。キャリア支援は、従業員個人への相談施策であると同時に、職場の活性化・人事運用・人材定着を支える組織施策でもあると述べました。
さらに、SCDの本質を「個人と組織の適合をつくること」とし、「個人には意思や興味、強み、将来構想、生活事情があり、組織には経営戦略や期待役割がある。対話と調整をつうじて両者を結び付けることで、個人には働きがいと成長を、組織には能力発揮や組織貢献で成果をもたらす」と説明しました。
この考え方は、変化の激しい現代においてとくに重要で、トップダウン型の「POWER OVER」だけでなく、現場と経営が共に学び合う「POWER WITH」の組織づくりが求められていると加えました。
SCDが機能するには3つの関門越えが必要
高橋氏はSCDが機能するためには3つの関門を越える必要があるとしています。
「経営者のYes」(経営課題・人材課題として取り組む意味を認める)、「管理職のYes」(自分のマネジメントとして対話と調整を引き受ける)、「社員の安心と主体性」(自分を理解し、組織と対話し仕事で試し、振り返る)の各関門の行動がつながり、初めてSCDが動き始めると示しました。
また、SCDは経営者、人事・推進者、管理職、社員、労働組合それぞれが役割を果たし組織ぐるみで動かす企業内のしくみであるとし、「労働組合は、組合員の声を受け止め、組織課題へ翻訳し、労使協議へつなぐ重要な役割を担う。また、SCDの制度は経営・戦略や安心して語れる文化、確立された運用体制が協調してこそ機能する」と語りました。
さらに、本人の主体性や多様性を尊重する組織のキャリア観と、個人の話を尊重し、思いや意見を受け止めすぐに否定しない組織文化の傾向には相関関係があると加えました。
人と組織の成長がSCDの目ざす姿
最後に高橋氏はSCDを「社員の声と実践を組織改善へつなぐ好循環」と位置付け、「経営課題を人材課題に翻訳し、対話をつうじて適合条件を整え、仕事で試行し、その結果を制度や職場改善に生かすという循環を回し続けることが重要」と説明(図B参照)。「SCDの目ざすべき姿は、個人の働きがいと組織貢献を結び、人と組織が共に学び成長し続ける企業内のしくみを構築することである」と締めくくりました。

