勤労者・生活者の目線に立った より良い社会の実現に労働組合は必要
中北 浩爾 中央大学教授 講演(要旨)
既報のとおり、UAゼンセンは4月5日、第7回「全国議員団会議」を開催。全国の組織内・準組織内地方議員らと共に、本年7月の「田村 まみ」必勝を誓い合いました。今号では、本会議で実施した中北浩爾中央大学教授による講演「労働組合が政治に取り組む意義」の内容(要旨)を紹介します。いまこそ政治に注目を!

民主主義において労働組合は重要
具体的な質問から労働組合の重要性と政治に取り組む意義を考えてみましょう。
【質問1-①】店主の代替わりで、毎日買っているパン屋の味が落ちてしまった。
この場合、皆さんはどうしますか。「味が落ちたと店主に告げる」「我慢して買い続ける」「別の店で買う」などの選択肢があります。では、次の場合はどうでしょうか。
【質問1-②】職場で上司から不当に厳しいノルマを課され、心身ともに疲れ果ててしまった。
先ほどと同じように、「休む」「我慢する」「辞める」「労働組合に相談する」などの選択肢が考えられます。
経済学者であるアルバート・ハーシュマンは、このように私達の日常生活に起こるさまざまな問題への対処について、2つの類型を示しました(別項)。1つは「離脱」です。先ほどの質問で言えば、「店を変える」「仕事を辞める」などがこれに当たります。【質問1-①】では、客の離れたパン屋は味を改善するか、閉店するかの選択を迫られます。つまり、「離脱」は市場原理主義に任せるという選択と言えます。

では、【質問1-②】の場合でも、同じでしょうか。残念ながら、会社と従業員は対等ではなく、労働条件の改善にはつながらない可能性が高いです。
そのため、「発言」が重要なのです。先ほどの質問で言えば、「味が落ちたと伝える」「労働組合に相談する」の選択肢は、民主主義の選択と言えます。
一人ひとりの「発言」をつうじ、健全な職場を実現し、会社の発展につなげていくために、労働組合は非常に重要な役割を担っているのです。
〝政治は団体戦であり、団結は力〟
働く仲間の団結で一票の価値を高める
続いて、労働組合が政治に取り組む意義を考えていきたいと思います。
【質問2】ある組合員が「投票に行かない」と言っています。皆さんはどのように説得しますか。
最低賃金をはじめ、私達の労働条件の一部は政治で決定されています。また、医療や介護、年金など、私達の抱える人生のリスクに対しては、政治の下支えが不可欠と言えます。また、労働組合の活動自体も「労働組合法」という法律に支えられています。こういったことを真摯に伝え、「労働組合が政治活動に取り組むことは重要」と伝えていく、というのがいわゆる「模範解答」とされています。
すると、とくに若年層の組合員からは「私が投票に行っても変わらない」と返答がある場合が多いようです。一方、私達は「貴重な一票」と頻繁に口にします。これは事実でしょうか。

政治学者のウィリアム・ライカーとピーター・オードシュックは、私達の投票行動を「R=PB−C+D」(別項)という式で表しました。この式により、一人ひとりの一票の価値は非常に低いことが明らかとなりました。一方で、この式は非常に重要な要素として、「D(義務感)」を提示していると考えることができます。
「一票は軽いが固まった票は重い」。私はこれに尽きると思います。現在、社会は過剰な個人主義が台頭しており、あらゆる団体は衰退の兆候を示しています。労働組合も同様です。
一方、「義務感」は「つながり」と言い換えることができます。男女や年齢に関わらず、多様な職場の仲間を巻き込んでいくことが必要です。そうして、「固まった票」をつくり出すことが重要なのです。
政治とは団体戦で、「団結こそ力」です。
組合員の政策実現のために全力
地方連合会が実施した調査では、「投票する候補者や政党を決めるにあたって参考にしたもの」という項目で、労働組合発行の機関紙・誌や組合役員からの働きかけの重要性が明らかとなっています。
これをふまえ、最後の質問を考えていきたいと思います。
【質問3】ある組合員が「労働組合は政権与党である『自民党』を支持・支援したほうが政策を実現できるのではないか」と言っています。皆さんはどう説得しますか。
この質問に対する最も重要なポイントは、「自民党とは目ざす社会像が異なっている」ということです。「混ぜるな危険」という言葉もあります。
自民党の綱領を読むと、自民党には「国家が先にあり、国民は国家に奉仕する」という考え方があります。一方、連合が掲げる「働くことを軸とする安心社会」は、「多様な働く仲間を中心として、個人の権利を基軸に国家はそれをサポートする」という考え方です。

現在は自民党も含め、日本全体で「物価上昇を上回る賃上げが必要」という共通認識があります。こういった一致点で協力し合うことは重要です。しかし、労働組合が大切にする価値観や基盤、志と異なる考え方の政党を支持・支援することは適切ではありません。
最後に、現在、田村まみ組織内参議院議員は、国会で非常に頑張っています。介護従事者に対する特定最低賃金を活用した賃上げ実現など、いま必要とされる政策実現が前進しています。参議院議員選挙は、全国の仲間の力で、UAゼンセンの代表を国会に送り出すものです。皆さんの応援が実ることを祈念しています。
