日本では少子化にストップがかからず、昨年1年間に生まれた子供の数が初めて70万人を下回る見込みです。このまま行くと、日本は深刻な労働力不足に陥り、社会保障制度の維持が困難になると言われています。UAゼンセン京都府支部の師玉憲治郎支部長は、日本と同様の状況から国を挙げた政策によって出生率を上昇に転じたハンガリーに注目してきました。今号では、京都府支部が駐日ハンガリー大使館の協力を得て開催したセミナーの内容を紹介します。年の初めに、日本の明るい未来へ向けて一緒に考えてみませんか。

駐日ハンガリー大使館を訪ねた師玉支部長(左)。オルネル大使が手にするのはハンガリーの新憲法

オルネル=バーリン・アンナ 大使

第二次世界大戦後、ハンガリーは共産主義や社会主義の時代が続き、人々は将来のことを思い描くことができず、経済的にも不安定でした。1981年以降、人口は減少の一途をたどり、子供を持ちたいという欲求は歴史的な低さまで落ち込みました。当時の政府は家族を守る意識がなく、人口の減少によってどのようなことが起こるか気にも留めていなかったのです。

2011年、ハンガリーの出生率はEUで最低の1.23となりました。ここから新しい政府(2010年に発足した現オルバーン政権)の取り組みがスタートしました。
最初に、新しい憲法をつくりました。憲法は国家のシンボルです。新憲法の最初の部分に、家族と子供の保護を明記し、胎児のときから多くの支援を受けることを可能にしました。日本でも少子化を止めようと思ったら、第一に家族の経済的不安を軽減し、将来の心配を排除することです。

オルネル=バーリン・アンナ 大使

同時に、保育園数を増やすなど育児の環境を整備した結果、多くの女性が労働市場に戻ることができました。こうして婚姻数の増加・出生率の上昇と合わせて雇用創出・経済発展をかなえることができたのです。いま、ハンガリーの若い人達は、家族をつくることは怖くないと感じています。

教育も大切です。ハンガリーでは、小学生から家族の大切さを教えています。その子供達が大人になったとき、結婚して子供を持ちたいと考えることでしょう。

ハンガリーの「すごい」家族支援政策

ここからは、UAゼンセン京都府支部の男女共同参画セミナーの内容を紹介します。講師を務めた駐日ハンガリー大使館の貿易・経済アタシェ、バグディ氏の資料にもとづきハンガリーの家族支援政策の考え方と具体的支援内容、成果について見ていきましょう。

駐日ハンガリー大使館アタシェバグディ・トーツ・マルセル氏
駐日ハンガリー大使館アタシェ バグディ・トーツ・マルセル氏

2011年に新憲法を発効し、ハンガリーの伝統である家族を中心とする価値観にもとづく家族保護を謳った。

「ハンガリーは、自由意思に基づく男女間の共同体としての結婚制度と、国家の存続の基盤である家族を保護する」
「すべての人間は生命とその尊厳への権利を有し、胎児の生命は受胎の瞬間から保護される」

ハンガリー国基本法(新憲法)

家族政策を担当する省庁と大臣を設置。2020年から家族政策担当大臣として家族支援を推進したノヴァーク・カタリン氏は、2022年に女性として初のハンガリー大統領に就任した(2024年2月辞任)。

※紹介する支援策は代表的なものです。

少子化対策という“国家の大計”を成功させ国としての安定と雇用創出・経済成長を実現

すべての国民が希望する生き方をかなえられるようにサポートする

若い世代が経済的な不安から結婚して子供を持つことをあきらめることがないよう、巨額の予算を投じて家族支援政策を推進してきたハンガリー。少子化の克服以外にも成果は多い。幅広い支援のもと、女性達はキャリアをあきらめることなく、出産・育児をしながら仕事を続けることを選択できた。その結果、雇用が伸び、経済は成長しているという。ハンガリーの人々はいま、明るい将来を展望しながら家族で新年の食卓を囲んでいることだろう。