“仲間を励まし、助け合うことが原点”

西尾書記長は東京都出身。温厚な物腰からは想像もつかないが、柔道、剣道、少林寺拳法、合気道、居合いと、ひと通りの武道を嗜んでいる。アイデアマンな一面もあり、愛娘が小学生のころに「多忙でも父と子の交流をとりたい」と思い立ち、「交換日記」によるコミュニケーションを小学校卒業まで続けたエピソードを持つ。いまはお孫さんと「交換日記」を楽しんでいるそうだ。

組合活動は、全忠実屋労働組合(現ダイエーユニオン)で橋本店(神奈川県相模原市)の支部長からスタートした。気がつけば組合専従歴は30年を迎えた。30年間の組合活動・労働運動は「出会(合)い」の連続だったという。「多くの出会(合)いを経験して、いろいろな“巡り合わせ”の末に、いまの自分があると感じています」と振り返る。

加盟組合と連携した課題解決へ決意を語る西尾書記長

とくに記憶に残っている体験を尋ねると、自身の運動・活動の「原点」と呼べる思い出を聞かせてくれた。
当時25歳の西尾書記長はマレーシア有数の自然豊かな観光地・コタキナバルを訪れていた。この地でAPROーFIET(国際商業労連アジア・太平洋地域組織。現UNIーAPRO)主催で青年リーダー養成講座が開かれることを知り、みずから手を挙げて参加したのだった。

この養成講座では、アジア各国から青年が集まり、組合リーダーになるべく「リーダーシップ論」や「コミュニケーション論」「団体交渉」など、組合活動の必須項目について学びを深めていた。また、夜な夜な開かれる「交流会」は、まさに〝異文化交流〟。国籍はもとより、労働組合のあり方や組合活動に携わったきっかけなど、あらゆることが千差万別の参加者達と言葉を交わした。そのなかで、「労働者・組合員を守り、助けるために運動・活動をしている」という一点だけは全員に共通していることに気がついた。「この『労働者・組合員のために』という本質から外れない限り、『どんな運動・活動も自由なんだ』と、一気に目が開けた気持ちでした」と語る。このとき、この養成講座に参加したことも、一つの“巡り合わせ”なのだろう。

“労働者・組合員のために”の視点で

〝巡り合わせ〟は続いていく。帰国後は、ダイエーユニオン出身の勝木健司組織内参議院議員(当時)の事務所で“永田町の世界における組合員のための政策実現の過程”を目の当たりにした。その後、執行委員として出向したゼンセン同盟流通・サービス部会(当時)では、初めて出席した執行委員会中に加盟組合の合理化の知らせが入った。書記局員は一部を残し全員が現地へ駆けつけ、労働債権の確保に奔走した。「思い返せば『労働組合の本質』にふれるような貴重な経験ばかりでした」と振り返る。

副書記長時代には、社会的な賃上げ実現のための要請や労働協約の地域的拡張適用を主導してきた

ときには、先達の遺した言葉との〝巡り合い〟に心が震えた。「運動・活動を進めるなかで、先達の遺した言葉を『道標』として大切にしたいと思っています」と思いを込める。いまでも日々のなかで、琴線にふれた言葉を手帳に書き留めている。「折にふれて読み返すことで、何度も聞いた言葉から、新しい気づきを得ることがあります」と手帳を開く。例えば、宇佐美忠信ゼンセン同盟会長(当時)は、中央教育センター「友愛の丘」の落成を祝して、こんな言葉を述べている。「友愛とは、仲間の心の痛みを知り、お互いに励まし、いたわり、助け合う心」。この言葉について、西尾書記長は「これは、宇佐美会長みずから〝友愛〟を解釈して語ったもの。『すべての運動はこの心から始まる』という私達の原点を示した指針となる言葉です」と力を込める。

最後に、不思議な〝巡り合わせ〟をもう一つ。西尾書記長の曾祖父は、戦前・戦後の労働運動をけん引し、民社党初代委員長として活躍した西尾末広氏だ。「後に『労働組合主義』と名付けられますが、曾祖父も最初から『労働者のために』ということを念頭に置いて活動していたように感じます。あくまでその一心で自由闊達に活躍した人だと思っています」と微笑む。曾祖父と同じ思いを胸に、UAゼンセン運動の充実へ全力を尽くしている。

“運動を起こし、活動をつくる”体制へ

西尾書記長にとっての「運動」の定義を尋ねると、ふたたび宇佐美元会長の言葉を引いた。「『仲間の心の痛みを知り、お互いに励まし、いたわり、助け合うこと』。これに尽きると思います」と言い切る。これをふまえ、「運動」を前進させるための重要なポイントとして、UAゼンセン書記局員の心得として長らく受け継がれてきた「一に組織化、二に合理化、三、四がなくて、五に選挙」という言葉を挙げる。「これは、この3つの重要な活動で『役割を全うできる書記局員であれ』という先達からの励ましだと捉えています。先達の期待に応えられるように、これからも努力を続けていきたいと思います」と語る。

折しも、第13回定期大会で、永島智子会長は「組織化」「賃上げ」「政治」の3つの課題解決を掲げた。「加盟組合と連携し、解決を実現していく軸は書記局であり、書記長は加盟組合と書記局をつなぐ〝要〟の役割だと認識しています」と決意を語る。

最後に、西尾書記長は、UAゼンセン運動を充実させるために、「運動を起こし、活動をつくる」ことの必要性を指摘する。「運動を起こすことは、いわば『火をつけること』です。マッチや太陽光線など、方法はさまざまです。落合清四元UIゼンセン同盟会長は『摩擦なきところに運動なし』と言っています。また、活動をつくるとは、『薪をくべ、空気を送る』ことです。活動は継続していくことが大切です。加盟組合と共にUAゼンセン運動の充実をはかっていきます」と締めくくった。

これからもすべての〝巡り合わせ〟を糧とする前向きな精神で、UAゼンセン運動をより良い方向にけん引してくれるに違いない。

西尾書記長プロフィール

1967年、東京都生まれ。89年忠実屋(現ダイエー)入社。全忠実屋労働組合中央執行委員、ダイエーユニオン中央執行委員、特別中央執行委員。98年ゼンセン同盟流通・サービス部会執行委員、UIゼンセン同盟流通部会副事務局長、UAゼンセン流通部門副事務局長、事務局長、UAゼンセン副書記長・労働条件局長を経て、同・政治戦略本部事務局長。UAゼンセン第13回定期大会で書記長に就任。